退職引き止めが違法になるケースと対処法|弁護士が徹底解説

会社へ退職を伝えた途端、「辞めるのは認めない」「後任が決まるまで待て」「損害賠償する」と強く引き止められることはよくあります。人手不足を理由に退職を拒否されたり、長時間面談や脅しを受けたりしている場合は、会社側の対応に違法性が生じることがあります。
この記事では、退職引き止めが違法になる具体的なケース、会社側が負うリスク、違法な引き止めへの対処法について、弁護士の視点から詳しく解説します。
【結論】
・退職引き止め自体は直ちに違法ではない
・違法になるかどうかは「引き止めの手段」が重要
・損害賠償や長時間面談は違法化することがある
・退職届拒否や在職強要は法的問題へ発展しやすい
・強い引き止めが続く場合は早めの記録保存が重要
退職の引き止めはすべて違法になるわけではない|合法と違法の境界線

会社から退職を引き止められると、「これは違法なのではないか」と不安になる人も多いでしょう。ただ、退職引き止めそのものが、直ちに違法になるわけではありません。実際には、会社側がどのような方法で引き止めているのかによって、合法な話し合いなのか、違法な在職強要なのかが変わります。

引き止め自体は違法ではなく「手段」が問題になる
会社側が、「本当に辞めるのか」「引き継ぎはどうするのか」などを確認し、一定の話し合いを行うこと自体は、違法ではありません。退職時には、業務調整や引き継ぎ確認が必要になる場面もあるためです。一方で、退職意思が固まっているにもかかわらず、
・長時間面談を繰り返す
・退職届を受け取らない
・損害賠償を示唆する
・有給取得を認めない
など、退職そのものを妨害する行為へ発展すると、違法性が問題になります。つまり、問題になるのは「引き止めをしたこと」ではなく、「どのような手段で退職を妨げたか」です。
合法な引き止めと違法な引き止めの具体的な違い
「引き継ぎ期間を相談したい」「繁忙期なので退職時期を調整できないか」といった冷静な協議は、一般的な業務調整の範囲として行われることがあります。一方で、「辞めるなら損害賠償だ」「退職届は受け取らない」「後任が決まるまで辞めさせない」と強い圧力をかけ続ける場合は、話し合いの範囲を超え始めます。退職の自由を事実上奪うような対応が続くと、在職強要として問題化しやすくなります。
退職の自由を保障する法的根拠(民法627条・憲法22条)
日本では、労働者には退職の自由が認められています。民法627条では、期間の定めがない雇用契約の場合、退職意思を示してから2週間が経過すれば退職できると定められています。また、憲法22条では職業選択の自由が保障されており、働く場所や辞める時期を自分で選ぶ権利があります。
そのため、会社側が一方的に「辞めさせない」と決め続けることはできません。強い引き止めによって、実質的に退職できない状態が続いている場合は、違法な在職強要へ近づいている可能性があります。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
民法627条 民法電子版(総務省)
退職の引き止めが違法になる6つのケース

会社側には一定の範囲で引き止めを行う自由があります。しかし、退職意思を無視し、労働者を事実上辞められない状態へ追い込むようになると、違法性が問題になります。実際の相談でも、単なる説得ではなく、在職強要に近い対応へ発展しているケースは少なくありません。ここでは、退職引き止めが違法と判断されやすい代表的なケースを紹介します。
「後任がいない」を理由に退職を認めない
人手不足や後任不在を理由に、「今辞められると困る」「後任が決まるまで待て」と退職を拒否する会社は少なくありません。しかし、人員確保は本来会社側の責任です。労働者へ無期限に勤務継続を求め続けることはできません。退職日を一切決めさせず、話し合いだけを長期間続ける場合は、在職強要へ近づいていきます。
また、「1か月前に辞めるのは非常識だ」と言われ、強く引き止められるケースもあります。退職時期と会社対応については、「退職1か月前は非常識ではない。会社対応と引き止め対策」の記事でも詳しく解説しています。

「損害賠償する」と脅して退職を断念させる
退職を申し出た途端、「辞めたら損害賠償請求する」と強い言葉で圧力をかける会社もあります。ただ、通常の退職だけで高額請求が認められることはありません。それにもかかわらず、恐怖心を利用して退職を断念させようとしている場合は、脅迫的な引き止めとして問題になることがあります。
退職届を受け取らず無視・破棄する
退職届を提出しても、「受け取れない」「そんな話は認めない」と拒否し続ける会社もあります。中には、退職届を返却したり、話し合いを理由に受領自体を先延ばしにするケースもあります。しかし、退職は会社の承認制度ではありません。退職意思を明確に示している以上、会社側が書類を受け取らないことに大きな法的意味はありません。
長時間の面談や説得を繰り返し精神的に追い詰める
毎日のように面談へ呼び出され、「考え直せ」「本当に無責任だ」と長時間説得を続ける会社もあります。最初は話し合いだったとしても、何度も繰り返されることで、精神的圧迫へ変わっていきます。実際、面談通知を見るだけで体調を崩したり、出社できなくなる相談者もいます。退職の自由を心理的圧力で奪う行為は、パワハラとみなされます。
「懲戒解雇にする」と脅して退職を断念させる
会社側が「辞めるなら懲戒解雇にする」「経歴に傷がつくぞ」と脅し退職撤回を迫るケースもあります。しかし、懲戒解雇には客観的合理性や重大な規律違反が必要です。単に退職したいという理由だけで、直ちに懲戒解雇できるわけではありません。
有給休暇の取得を認めず出社を強制する
退職前に有給休暇を申請したところ、「人が足りないから認めない」「最後まで出社しろ」と拒否されるケースもあります。しかし、有給休暇は法律上認められた権利です。退職妨害を目的に有給取得を妨げている場合は、会社側の対応が問題化しやすくなります。特に、退職日まで一切休ませず、精神的圧力をかけながら出社を強制している状況では注意が必要です。
違法な退職引き止めは会社側の責任問題になる

会社側は、労働者を自由に辞めさせない権限を持っているわけではありません。そのため、退職意思を無視し、強い圧力や脅しによって働き続けさせようとすると、会社側の責任問題へ発展することがあります。実際には、単なる社内トラブルでは終わらず、慰謝料請求や行政対応へ進むケースもあります。
在職強要として損害賠償請求へ発展することがある
退職意思を明確に伝えているにもかかわらず、
・退職届を受け取らない
・無期限に退職を拒否する
・毎日のように説得を続ける
などの対応が長期化すると、在職強要として問題になることがあります。特に、精神的苦痛が強く、通院や休職へ発展している場合は、会社側へ慰謝料請求が検討される場面もあります。実際の裁判でも、会社側の対応が社会通念を超えていたかどうかが争点になることがあります。
パワハラ認定されると会社側へ慰謝料請求されることもある
退職引き止めの中には、「裏切り者だ」「社会人失格だ」など、人格否定に近い発言を繰り返す会社もあります。また、長時間面談を続けたり、大勢の前で退職意思を責め続けるケースもあります。このような対応は、単なる引き止めではなく、パワハラとして評価される可能性があります。録音やLINE履歴などが残っている場合、後から会社側の責任が問題になる場面もあります。
労働基準監督署・労働局の調査対象になるケース
有給休暇を認めない、退職届を受け取らない、強い脅しを伴うなど、違法性が強い場合は、行政機関への相談へ発展することもあります。特に、有給取得妨害や長時間労働問題が重なっているケースでは、労働基準監督署へ相談されることがあります。また、退職トラブルそのものについては、労働局のあっせん制度が利用される場面もあります。会社側としても、違法性が強い対応を続けると、社外問題化するリスクを抱えることになります。
弊所へ寄せられた違法引き止めの相談事例

退職引き止めが違法になるかどうかは、実際に会社側がどのような対応を取っていたかによって判断されます。特に、長期間の退職拒否や脅し、精神的圧力が続いている場合は、単なる引き止めの範囲を超え始めます。ここでは、実際に弊所へ寄せられた相談内容をもとに、違法性が問題になった事例を紹介します。
事例①:人手不足を理由に半年間退職を拒否され続けたケース
20代男性の相談では、退職を申し出た後、「今辞めたら現場が崩壊する」「後任が育つまで待て」と言われ続け、退職時期を一切決めてもらえない状態が続いていました。毎月のように、「来月まで待ってほしい」「今は繁忙期だから無理だ」と話を先延ばしにされ、結果的に半年近く退職できない状況になっていました。本人は次第に「もう辞められないのではないか」と思い込むようになり、精神的にも強く追い詰められていました。
その後、弊所へ相談いただき、弁護士名義で正式に退職通知を送付しました。通知書では、
・退職意思は撤回しないこと
・民法627条に基づき退職日を確定すること
・今後は本人へ直接退職撤回を求めないこと
を明確に整理して会社側へ伝えました。当初、会社側は、「本人と直接話をしたい」「引き継ぎが終わっていない」と反発していました。しかし、退職日を明記した正式通知を送付した後は、それまで毎週続いていた面談要求が止まり、会社とのやり取りは人事担当者とのメール連絡のみへ変わっていきました。最終的に、本人はそれ以上出社することなく退職しています。
事例②:損害賠償を示唆され退職を諦めかけていたケース
30代女性の相談では、退職を申し出た直後から、「辞めたら損害賠償を請求する」と強い口調で言われ続けていました。また、上司からは、「会社へ与える損失を分かっているのか」「逃げるつもりか」と何度も責められ、退職自体を断念しかけていたといいます。本人は「本当に数百万円請求されるのではないか」と恐怖を感じ、会社からの電話通知を見るだけで動悸が出る状態になっていました。
その後、弊所が介入し、会社側へ正式通知を送付しました。通知では、
・退職意思が確定していること
・通常退職だけで直ちに高額請求が成立するわけではないこと
・今後の連絡は弁護士を通すこと
を整理して伝えました。当初、会社側は、「本人と直接話させろ」「会社へ損害が出ている」と繰り返していました。しかし、弁護士側から具体的な請求根拠の確認を求めた後は、それまで続いていた損害賠償発言が急に減り、電話連絡も止まりました。その後、会社側とのやり取りはメールのみとなり、実際に損害賠償請求へ進むことなく退職が成立しています。
事例③:しつこい面談でうつ状態になり弁護士が介入したケース
別の相談では、退職意思を伝えた後から、毎週のように長時間面談へ呼び出される状態が続いていました。面談では、「考え直せ」「無責任だ」「今辞めるのは逃げだ」と何時間も説得が続き、時には複数の上司から同時に責められることもあったといいます。最初は冷静に対応していたものの、次第に会社へ行くこと自体が怖くなり、食欲低下や不眠症状も出始めていました。本人は、「また呼び出されるのではないか」という恐怖から、会社の連絡通知を見るだけで強いストレスを感じる状態になっていました。
その後、弊所へ相談いただき、弁護士が正式に介入しました。会社側へは、退職意思が確定していること、
今後は本人へ直接連絡しないこと、長時間面談が精神的負担になっていることを伝えました。会社側は、「本人と一度は直接話す必要がある」「社会人として無責任だ」と主張していました。しかし、弁護士側から、面談継続によって心身へ支障が出ている状況や、録音記録が残っていることを整理して伝えた後は、それまで毎週続いていた面談要求が止まりました。その後、会社との連絡は人事担当者とのメール対応だけへ切り替わり、本人は出社せず退職しています。
退職引き止めが違法と感じた時にまずやること

会社側から強い引き止めを受けると、精神的に追い詰められ、「自分が悪いのではないか」「本当に辞めていいのか」と判断できなくなる人もいます。ただ、感情的に対応すると、会社側のペースで話が進みやすくなります。まずは、退職意思を明確に残しながら、会社側の言動を客観的に記録することが大切です。
引き止めの言動を録音・記録として残す
違法性が問題になる場面では、後から「言った・言わない」の争いになることがあります。損害賠償発言、退職拒否、長時間面談、人格否定発言などがあった場合は、できる限り記録を残してください。具体的には、面談内容の録音、LINEやメール保存、日時メモなどが有効です。実際、録音記録が残っていたことで、会社側の態度が大きく変わるケースもあります。
退職届を書面で提出し受領記録を残す
口頭だけで退職を伝えていると、「正式には聞いていない」「相談だと思っていた」と会社側が話を変えることがあります。そのため、退職届は書面やメールで提出し、証拠を残すようにしてください。また、上司が受け取らない場合でも、内容証明郵便を使えば、退職意思を客観的記録として残しやすくなります。
一人で抱え込まず早めに専門家へ相談する
違法な引き止めが長引くと、冷静な判断が難しくなることがあります。電話通知を見るだけで動悸が出たり、出社そのものが怖くなる、退職を諦め始めるという状態まで追い詰められる人もいます。また、自分では「普通の引き止め」だと思っていても、法的には問題化しやすいケースもあります。強い圧力や脅しが続いている場合は、早めに弁護士へ相談し、状況整理を行うといいでしょう。
状況別|違法な退職引き止めへの対処法

退職引き止めといっても、実際には会社ごとに対応パターンが異なります。人手不足を理由にされるケースもあれば、損害賠償を示唆されたり、長時間面談が続いたりするケースもあります。重要なのは、自分が今どの状況に置かれているのかを整理し、それに合った対処を取ることです。
人手不足・後任なしを理由にされている場合
「後任が決まるまで待ってほしい」「今辞められると現場が回らない」と言われ、退職日を決めてもらえないケースは少なくありません。ただ、人員確保は会社側の責任です。退職時期を無期限に先延ばしし続けることはできません。
人手不足を理由に退職を止められている場合は、「人手不足でも退職できる?引き止めへの対処法と会社の辞め方を解説」の記事でも詳しく解説しています。
損害賠償を脅しに使われている場合
退職を伝えた途端、裁判や損害賠償という言葉で強い圧力をかけてくる会社もあります。しかし、通常の退職だけで直ちに高額請求が認められる場面は多くありません。恐怖心を利用して退職撤回を狙っているケースもあります。
損害賠償トラブルへの対応は、「退職引き止めで損害賠償は実際に請求される?弁護士が解説」の記事で詳しく紹介しています。

何度も面談を繰り返されしつこい場合
毎週のように面談へ呼び出され、長時間説得が続くケースもあります。最初は話し合いでも、繰り返されることで精神的圧迫へ変わっていきます。実際には、会社からの連絡通知を見るだけで強いストレスを感じる状態になる人もいます。
しつこい引き止めへの具体的対応は、「退職引き止めがしつこい…何度も面談される時の対処法」の記事で詳しく解説しています。

断り方・例文が知りたい場合
退職を相談ベースで伝えてしまい、会社側に交渉余地を与えてしまう人もいます。引き止めを長引かせないためには、退職意思を曖昧にせず、決定事項として伝えることが重要です。
上司への伝え方や断り方の例文については、「退職引き止めの断り方と例文|会社を辞める時の上手な伝え方」の記事で具体的に紹介しています。

一般の退職代行と弁護士の退職代行は何が違うのか

退職引き止めが強くなると、「もう自分では対応できない」「退職代行を使った方がいいのでは」と考える人も増えてきます。ただ、退職代行であればどこへ依頼しても同じというわけではありません。特に、違法な引き止めや損害賠償トラブルへ発展している場合は、対応できる範囲に大きな違いがあります。
違法な引き止めに対して民間業者ができないこと
民間の退職代行は、本人の退職意思を会社へ伝えることが主な役割です。そのため、会社側が強く反発し始めた場合、対応できる範囲に限界があります。例えば、損害賠償請求、有給取得交渉、退職日調整など、法律上の交渉が必要になる場面は民間業者が交渉すると弁護士法違反(弁護士法第72条)に当たります。
また、会社側が「本人と直接話したい」「法的対応を検討する」と主張し始めた場合、民間業者では対応が難しくなるので、このようなリスクを孕むとき、最初から弁護士の提供する退職代行を利用した方が良いでしょう。
弁護士なら違法引き止め・損害賠償・有給を一括対応できる
弁護士であれば、会社側との法的交渉を正式に行うことができます。退職通知だけでなく、
・退職日の確定
・有給休暇の取得
・未払い賃金
・損害賠償への対応
なども含めて整理しながら進められます。また、会社側へ、本人へ直接連絡しないこと、退職意思は撤回しないことなどを正式通知として送ることも可能です。
実際、弁護士介入後、それまで続いていた長時間面談や強い引き止めが止まり、会社側の窓口が人事担当者だけへ切り替わることが多くあります。
まとめ|退職引き止めの違法ラインを知れば一人で悩む必要はない
退職引き止め自体は直ちに違法ではありません。しかし、損害賠償の脅しや長時間面談、退職拒否が続くと、在職強要として問題化することがあります。会社の圧力に一人で耐え続ける必要はありません。違法ラインを正しく理解し、記録を残しながら早めに専門家へ相談することが重要です。

佐藤 秀樹
弁護士
平成12年慶應義塾大学法学部法律学科卒。 平成15年に司法試験合格後、片岡法律事務所入所。
債権回収、相続問題といった一般民事事件から、M&A、事業再生、企業間取引
労務管理、知的財産権などの企業法務まで、数多くの実務に従事する。
平成19年からは慶應義塾大学法科大学院講師(実務家ゼミ担当)及び慶應義塾大学法学研究所講師を務める。
平成21年に弁護士法人みやびを開設し、現在に至る。
退職引き止めの違法性についてよくある質問
退職引き止めの違法性について、よくある質問をまとめました。
引き止めを無視して出社しなくなっても問題ない?
状況によっては注意が必要です。無断欠勤の形になると、会社側と別のトラブルへ発展することもあります。まずは退職意思を明確に伝え、記録を残しながら進めることが重要です。
退職届を出してから何日で退職が成立する?
期間の定めがない雇用契約の場合、民法627条により、退職意思を示してから2週間で退職が成立するとされています。
違法な引き止めを受けた場合に慰謝料は請求できる?
長時間面談や脅し、人格否定発言などによって精神的苦痛が大きい場合は、慰謝料請求が問題になる場面もあります。録音やLINE履歴などの証拠が重要になります。
退職代行を使うと会社の態度が悪化する?
会社側が感情的に反応するケースはあります。ただ、強い引き止めや脅しが続いている場合は、第三者を入れることで直接圧力が止まるケースもあります。
退職届を受け取ってもらえない時はどうする?
上司が受け取らない場合でも、内容証明郵便を利用すれば、退職意思を客観的記録として残しやすくなります。






